
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の三重代表として、志摩ひかるは全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は海路を拓く冒険型キャプテン。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、九鬼嘉隆の戦術思想を女性人格として再構築した〈九鬼嘉隆AI〉。海路を押さえ、重厚な演出で観客の想像へ巨大な船を出現させる。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
志摩ひかるの海上ステージに、九鬼嘉隆AIは鉄甲船を思わせる炎と砲煙の演出を用意した。「海を制す姿を見せれば、誰も忘れぬ」。迫力に胸は躍ったが、近くでは漁船が戻り、海鳥も低く飛んでいる。ひかるは派手な火薬を使わないでほしいと告げた。AIは勝機を捨てるのかと問う。彼女は代わりに、白い帆へ赤い光を当て、太鼓と波音だけで出航を描く。本番、風が帆を膨らませた瞬間、観客の想像の中で巨大な船が動き出した。海を征服するのでなく、道を借りて進む。
その約束を、ひかるは最初の航海に刻んだ。ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。順位表示を待つ控室で、志摩ひかるは九鬼嘉隆AIとその日の選択を一つずつ振り返った。嘉隆AIの制海を、ひかるが海を征服せず道を借りる航海へ変える。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。三重の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
三重篇・了