
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の福島代表として、会津若葉は全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は傷跡を希望へ変える再生の象徴。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、蒲生氏郷の戦術思想を女性人格として再構築した〈蒲生氏郷AI〉。完成された威容を前面に出し、欠点を見せず支持を集める。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
会津若葉が立つ旧ホールの壁には、修復された細いひびが残っていた。蒲生氏郷AIは城下の威信にふさわしい映像を作り、「傷は投影で隠し、完成された街を見せよ」と指示する。若葉も、心配そうな顔ではなく笑顔を届けたいと思っていた。けれど地元の大工が、その線を指して「直した跡も、この建物の時間だ」と話す。若葉は壁を消す映像をやめ、ひびに沿って若葉色の光を走らせた。本番、一本の線は曲が進むほど枝分かれし、最後には大きな樹になる。彼女が選んだのは、痛みを売り物にせず、隠しもしない見せ方だった。ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。
順位表示を待つ控室で、会津若葉は蒲生氏郷AIとその日の選択を一つずつ振り返った。氏郷AIが隠そうとした傷跡を、若葉が未来へ伸びる光の枝に変える。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。福島の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
福島篇・了