
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の広島代表として、三矢結月は全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は同盟設計者。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、毛利元就の戦術思想を女性人格として再構築した〈毛利元就AI〉。単独の強さより役割の違う三者を束ね、折れない連携を作る。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
三矢結月の舞台には、三本のマイクが等間隔に並んでいた。毛利元就AIは、勝つための同盟なら実力差を隠すなと、最も弱い候補を外すよう提案する。「一本では折れる。だが、傷んだ一本を混ぜれば三本とも折れる」。結月は合理性に言葉を失う。それでもリハーサルで声を詰まらせた相手へ、自分の中央マイクをそっと渡した。本番、三人は同じ音量ではなかったが、足りない箇所を互いの声で埋めた。三本とは三人の勝者ではなく、支え方の違う三人だ。
結月は採点表より先に、次の合同練習日を決めた。ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。順位表示を待つ控室で、三矢結月は毛利元就AIとその日の選択を一つずつ振り返った。元就AIの選別論を、結月が強さの違う三人で補い合う同盟へ変える。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。広島の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
広島篇・了