
西暦20XX年。国民参加型アイドル大会〈PROJECT TENKA〉の山口代表として、長門すみれは全国大会への切符を受け取った。彼女の役目は文化を育てるパトロン型リーダー。けれど、求められるのは歌の上手さだけではない。土地の記憶を背負い、観客の支持を集め、47人の頂点に立つことだ。起動した相棒は、大内義隆の戦術思想を女性人格として再構築した〈大内義隆AI〉。人材と芸術へ資源を集め、華やかな文化圏そのものを味方にする。を勝利の基本に置くAIは、初対面から彼女の迷いを見抜いていた。
長門すみれに、大内義隆AIは京文化を思わせる絢爛な舞台案を示した。金屏風、長い花道、名のある演奏家。実現すれば注目は集まるが、予算は一夜で消える。すみれは豪華な夢を捨てきれずにいた。そんな時、地元の高校生が手描きした小さな旗を持ってくる。彼女は金屏風を取りやめ、その一枚だけを舞台中央に掲げ、残った費用で子ども向けの公開稽古を開くと決めた。本番の映像は予測より質素だった。それでも翌週、同じ旗を真似した作品が何枚も届く。
文化は飾って終わるものではなく、次の作り手へ渡すものだと知った。ステージが終わっても、答えが完全に出たわけではない。順位表示を待つ控室で、長門すみれは大内義隆AIとその日の選択を一つずつ振り返った。義隆AIの絢爛を、すみれが次の作り手へ機会を渡す持続的な支援へ変える。 勝つための策と、守りたい気持ちは、どちらか一方を捨てるものではない。二人が次の戦いへ持ち越したのは、正解ではなく、自分たちで選び直せるという確信だった。山口の会場を出ると、観客が口ずさむ旋律が夜の町へ続いている。その声を聞いた彼女は、天下統一とは誰かを従わせることではなく、知らなかった土地の物語を互いに歌えるようにすることかもしれない、と初めて思った。
山口篇・了